
2025.02.20
2025.02.20
実務
残業は、多くの働く人にとって身近なテーマですが、残業の正しい定義や適用されるルールを明確に理解している方は少ないかもしれません。現在、働き方改革の推進により、残業に関する法律や規制も大きく変化しています。
本記事では、残業の基本的な概念や関連する法改正のポイントを解説し、知っておくべき大切な情報をお伝えします。
まずは、残業の定義について解説します。
残業とは、労働基準法が定める1日8時間・週40時間の法定労働時間を超える「時間外労働」のことです。一方、企業が独自に定める所定労働時間は、法定労働時間内で短く設定される場合があり、所定労働時間を超える労働も一般的に「残業」と呼ばれます。
ただし、法的に割増賃金が発生するのは、法定労働時間を超えた場合のみです。また、法定労働時間を超える残業を行うには、労使間で36協定を締結し届け出る必要があります。
前述のとおり、法定内残業とは、企業が定めた所定労働時間を超え、労働基準法で規定される1日8時間・週40時間を超えない範囲での労働時間です。法定内残業は、割増賃金の対象にはならず、通常の時給計算で賃金が支払われます。
一方、法定外残業は「時間外労働」とも呼ばれ、法定労働時間を超える労働のことです。法定外残業には、労働基準法により25%以上の割増賃金が適用されます。例えば、1日の所定労働時間が7時間の従業員が8.5時間働いた場合、最初の1時間は法定内残業、8時間を超えた0.5時間は法定外残業となります。企業や職場によって所定労働時間が異なるため、自分の勤務条件を把握することが大切です。
ここからは、残業に関するルールや割増賃金の計算方法について解説します。
企業が従業員に法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて労働させる場合は、労働基準法第36条に基づく「36協定(サブロク協定)」を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません。
36協定は、使用者と労働者の過半数を代表する者との間で締結され、時間外労働や休日労働の条件を明確に定めるもので、時間外労働の上限や適用範囲、有効期間などが規定されます。
残業時間には法律で明確な上限が設けられており、36協定を締結している場合でも、原則として月45時間、年360時間を超える時間外労働は認められません(労働基準法第36条第4項)。2019年の法改正によって規制が厳格化され、違反した企業には罰則が科されるようになりました。
ただし、業務量の急増など特別な事情があるケースでは、特別条項を締結することで上限を超える時間外労働が可能です。それでも、年間の時間外労働は720時間以内、月100時間未満、2~6カ月の平均で月80時間以内に収める必要があります。また、月45時間を超える労働ができるのは、1年間のうち6カ月までです。
労働基準法では、妊娠中または産後1年を経過していない従業員の労働環境を守るため、請求があった従業員の時間外労働や、休日労働を免除することが義務付けられています(労働基準法第66条第2項)。さらに、深夜労働も同様に免除の対象です。
また、変形労働時間制を採用している場合でも、妊娠中や産後間もない従業員が請求すれば、1日8時間・週40時間を超える勤務をさせることはできません。この規制は一律に適用されるものではなく、従業員本人からの請求が必要です。
労働基準法では、労働時間に応じて休憩時間を設けることが義務付けられています。具体的には、6時間を超える勤務には少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を与えなければなりません(労働基準法第34条第1項)。この規定は所定労働時間を超えて残業が発生した場合にも適用されます。
例えば、所定労働時間が7時間で休憩が45分の従業員が1時間半残業を行う場合、労働時間が8時間を超えるため、追加で15分以上の休憩が必要です。また、所定労働時間が4時間半で休憩がない従業員が2時間残業する場合、労働時間が6時間を超えるため、45分の休憩が発生します。
時間外労働には、通常の賃金に25%以上の割増率を加えた割増賃金を支払うことが労働基準法で義務付けられています。計算方法は、「1時間あたりの基礎賃金×割増率×残業時間」です。さらに、1カ月の時間外労働が60時間を超えた場合は、超過分に50%以上の割増率が適用されます。また、休日労働では35%、深夜労働には25%の割増率がかかります。
<時間外労働を12時間した場合>
時間外労働が12時間発生した場合、割増賃金は法定の25%以上の割増率で計算されます。例えば、時給が1,900円の場合、1時間あたりの割増賃金は1,900円×1.25=2,375円です。この金額をもとに、12時間分の残業代を計算すると、2,375円×12時間=28,500円となります。
<法定休日労働を9時間した場合>
法定休日に労働した場合は、休日労働として扱われ、割増賃金は通常賃金の35%以上で計算されます。例えば、時給が1,900円なら、1時間あたりの割増賃金は1,900円×1.35=2,565円です。この金額をもとに、7時間分の賃金を計算すると、2,565円×9時間=23,085円となります。
<時間外労働を17時間、時間外の深夜労働を5時間した場合>
時間外労働の割増率は25%、深夜労働を伴う時間外労働の割増率は50%です。時間外労働が20時間、そのうち深夜労働が3時間含まれる場合は、それぞれの割増率に基づいて賃金を算出します。
例えば、時給が1,900円の場合、時間外労働1時間あたりの割増賃金は1,900円×1.25=2,375円となり、17時間分は2,375円×17=40,375円です。一方、深夜に行われた時間外労働は、1時間あたり1,900円×1.5=2,850円となり、5時間分の賃金は2,850円×5=14,250円です。これらを合計すると、残業代は40,375円+14,250円=54,625円になります。
<時間外労働を88時間した場合>
時間外労働が88時間の場合、60時間分は割増率25%、60時間を超える28時間分は割増率50%で計算します。
例えば、時給が1,900円の場合、60時間分の時間外労働は、1時間あたりの割増賃金が1,900円×1.25=2,375円で、60時間分は2,375円×60=142,500円です。そして、60時間超過分の時間外労働は、1時間あたりの割増賃金が1,900円×1.5=2,850で、28時間分は2,850×28=79,800円になります。これらを合計すると、残業代は142,500円+79,800円=222,300円です。
ここでは、残業に関する労働基準法改正の内容を確認しましょう。
<上限時間に違反した場合の罰則>
2019年の労働基準法改正以前は、特別条項付きの36協定を締結していれば、時間外労働に上限がなく、罰則も設けられていませんでした。しかし、改正後は時間外労働の厳しい上限が設定され、上限を超えた場合は罰則が科されます。
具体的には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が適用される可能性があります。この法改正により、企業には残業時間の抑制や働き方改革への積極的な取り組みが強く求められるようになり、従業員の健康や労働環境の改善がより重視されるようになりました。
<特別条項を結ぶことで上限を超えられる>
2019年の労働基準法改正では、特別条項を締結することで、時間外労働の上限である月45時間・年360時間を超える労働が例外的に認められるとされました。
ただし、無制限ではなく、「時間外労働は年間720時間以内とすること」「時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満に収まること」「時間外労働と休日労働の合計が、2~6カ月の平均で月80時間以内であること」「月45時間を超える時間外労働が許されるのは、年間6カ月まで」という厳しい条件を守らなければなりません。
労働基準法の改正により、2023年4月1日から中小企業にも、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引き上げが適用されています。以前は中小企業に対する適用が猶予されていましたが、大企業と同様に、月60時間を超えた残業については50%以上の割増率が義務付けられるようになりました。
2020年4月1日の労働基準法改正により、未払い賃金の請求権の時効が従来の2年から3年に延長されました。この改正は、残業代を含む未払い賃金の請求可能な期間を拡大し、労働者の権利をより強く保護することを目的としています。
具体的には、2020年4月以降に発生した未払い賃金に関しては、3年間の時効期間内であれば請求が可能です。
ここでは、残業に関する押さえておきたいそのほかの規制を紹介します。
残業には、終業後の労働だけでなく、開始前の活動も含まれるケースがあります。例えば、定時が9時から18時の企業で、朝8時から仕事を始めた場合、9時までの1時間は時間外労働です。
また、会社の指示に従って行う朝の掃除や、制服の着替えも、使用者の指揮命令のもとで行われる活動として「労働時間」に含まれます。そのため、これらの時間が法定労働時間を超える場合は、時間外労働となり残業代の支払いが必要です。
年俸制は、1年分の給与をあらかじめ定め、それを分割して支払う制度ですが、時間外労働に対する割増賃金を免除するものではありません。労働基準法では、法定労働時間を超えた時間外労働について、割増率を適用した残業代の支払いが義務付けられています。これは年俸制の労働者にも適用され、残業代が基本給に含まれていない場合は別途支給が必要です。
参加が強制されている社内研修や、上司の指示で行う学習時間は、労働基準法において「使用者の指揮命令下にある時間」とみなされ、労働時間に該当します。たとえ学習や研修が業務の一環と見なされないとしても、出席が義務付けられている場合は、労働時間としてカウントしなければなりません。
最後に、残業時間の数え方について解説します。
残業時間は1分単位で記録し、すべてに対して適切な賃金を支払う必要があります。これは、労働基準法が定める「賃金全額払いの原則」に基づく義務であり、1分でも時間外労働が発生した場合は、割増賃金を支給しなければなりません。
これは、就業規則や賃金規程で変更できず、残業時間を15分や30分単位で切り捨てたり、端数をまるめたりする行為は違法とされ、サービス残業として問題視される可能性があります。
残業時間や割増賃金の計算は、原則として1分単位での管理が必要ですが、1カ月単位で通算して計算する場合は、特例として端数処理が認められています。厚生労働省の通達に基づき、1カ月間の時間外労働、休日労働、深夜労働の合計時間は、「30分未満の端数:切り捨て」「30分以上1時間未満の端数:1時間に切り上げ」という処理が可能です。
ただし、この処理方法は、月ごとの合計時間に対してのみ適用され、日々の勤怠記録や時間管理は、1分単位で計算する必要があります。また、常に端数を切り捨てる処理は違法であり、認められていません。
よりよいキャリアを築くためには、残業の定義を正しく理解し、自分の働き方を見直すことも必要です。
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